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美味しいものを好きな人と食べるとき、
人は皆、笑顔になる。
その笑顔を見ると自分も幸せになる。

2022年10月3日、「東京ワールドゲート」1階にオープンした「スカルペッタ東京」がメディアやSNSで話題を呼んでいる。「スカルペッタ」は、ニューヨークで人気のモダンイタリアン・レストラン。
アジア初の東京店を仕切り、とびきりの笑顔と会話でお客様を魅了するShiggyこと、田村滋総支配人のポジティブ思考と哲学に迫る。


―現在48歳。人生の半分近くを海外で過ごし、5か国語を話す。ホテル・レストラン業界に進んだのも、幼い頃の海外体験によるところが大きい。

父が商社マンだったので、2歳から赴任先のアメリカのカリフォルニア州で育ちました。9歳で帰国し、16歳のとき、また家族でインドネシアへ。インターナショナルスクール卒業後、「世界で勝負したい、フランス語やドイツ語も習得したい」と思い、スイスのホテル経営スクールに進学しました。

海外生活で得たものも多いけれど、僕の育った頃は白人社会の中でアジア系は生きにくい時代でした。でも、子どもの僕にはどこにも逃げ場はない。それで、与えられた環境のなかでいかに周りと楽しくやっていくか、自分らしさを表現するかを自然に身につけていったように思います。

小さい頃から周りを笑わせるのが大好きでした。今でもそうですが、皆が笑顔になったり、幸せそうにしているのを見ると自分もすごく嬉しくなる。人を楽しませたり、幸せにしたりできるこの仕事は天職だと思っています。

また、子どもの頃からホテル住まいが多く、ホテルを自分の家のように思って育ちました。従業員の皆さんにも可愛がってもらい、家族のように感じていました。僕にとってホテルは「非日常」ではなく、「日常」だったのです。これもホテル・レストラン業界に進んだ理由の一つです。


ホテル経営スクールを卒業すると、スイス、香港、日本、韓国、シンガポールなど、国内外の一流ホテルや三つ星レストランでキャリアを積んだ。新しい世界に飛び込むことにためらいはない。

いろいろな国籍の人々と一緒に仕事をしてわかったのは、国や思想、文化、宗教などが違っても、人間の本能はそう変わらないということです。一緒にテーブルを囲んで美味しいものを食べれば笑顔になるし、心の距離も縮まる。僕自身もそんなふうにして気持ちが通じ合った経験を何度もしています。

―「スカルペッタ東京」の総支配人に就いたのは、ある想いがあったから。

海外では否応なく日本人であることを意識したし、日本人としてのプライドを持ってやってきました。しかし、外資系ホテルではアジア系はなかなか総支配人にはなれないことが多い。 そこで発想を転換したのです。海外には僕のようなキャリアを持ち、数か国語を話す人間は結構いるけれど、日本では少ない。それならば、これまでの経験を日本で存分に活かしてみよう。今がキャリアのターニングポイントかもしれないと思い、自分が持っているものを全て出し切れる場所を探していました。それが「スカルペッタ東京」だったのです。


2020年、アジア初・日本初の「スカルペッタ東京」の総支配人になることが決まり、開業に向けてブルドーザーのように道を切り拓いた。
中でも「最高の体験だった」と振り返るのは、ニューヨークのスカルペッタ運営会社、LDVホスピタリティのトップ、ジョン・メドゥ氏と過ごした濃密な4週間だ。

ジョンとは毎日のように一緒でした。食事をしながら、彼が最初にスカルペッタを立ち上げたときの話やブランドに対する考え、ロゴの意味や料理・内装・サービスに対するこだわり、そして彼自身のファッションに対する考えまで熱く語ってくれました。今、振り返ると、ジョンが僕に自分のDNAを注入するための4週間だったように感じます。

彼は日本人や日本の文化が大好きで、東京にレストランを作ることが夢だったそうです。だから「自分の想いやこだわりを熟知する人間に任せたい、自分のDNAを注入した日本人をアンバサダー(代理人)として東京に置きたい」と思ったのかもしれません。ジョンとはWhatsAppで繋がっていて、今も常に連絡を取り合っています。

ジョン・メドゥ氏はコーネル大学ホテル経営大学院を卒業すると、24歳でナイトクラブを経営して大成功。
そのエッセンスを取り入れた「スカルペッタ」はニューヨーカーの心と胃袋を掴み、ニューヨークタイムズ誌から3つ星を獲得している。

「スカルペッタ」は単なる美味しいイタリアンパスタの店ではありません。ディナーが中心で、ナイトクラブの魅力も取り入れている。例えば、音楽は人が会話するレベルの少し上にし、店内照明を抑えることで、テーブルごとにお客様を主役にした「シーン」をつくり上げます。その雰囲気がスカルペッタの特徴であり、魅力のひとつです。



2人はすっかり意気投合。ジョン・メドゥ氏は、「『スカルペッタ東京』を成功させるのはShiggy(シギー:田村滋のニックネーム)しかいない」と語っている。

光栄ですが、すごいプレッシャー(笑)。心強いのは「スカルペッタのブランドはジョン・メドゥという人間そのものだ」とわかったことです。僕は、彼から注入されたDNAを信じて実行すればいい。本場ニューヨーク流のおもてなしに日本的な良さも加え、ジョンと同様、この店に情熱と愛情を注ぎ込みます。

ゼロから何かを創り上げることは慣れているし、ワクワクします。大切なのは想像力。僕は、まだ何もできていない段階で「こういうふうになったらいいな」という理想の姿をリアルに思い描き、スタッフや関係者に説明します。「こういうふうにしたいから、こういうふうに進めたい」と、ゴールとプロセスを伝えて共有する。そして、一人ひとりの強みや得意分野を見極め、それを活かせるようなチームを作り上げる。それが僕のやり方です。

今、言ったことにも重なりますが、海外で学んだのは「1+(  )=5」という考え方。「1」は今持っている経営資源、「5」は目的(完成形)です。「5」を達成するために、カッコの中に何を入れればいいかを考え、チームの意欲や情熱を束ねて実行するのが僕の役割です。

ニューヨークのスカルペッタは、エレガントかつフレンドリーなサービスと美味しい料理で近隣住民やセレブが足繁く通う社交場となっている。

東京店も「記念に訪れる特別なレストラン」ではなく、「普段使いの気取らない店」として、近隣にお住まいの方やビジネスパーソンに利用していただきたい。例えば、「今日は接待、明日は友達と来るから、週末は罪滅ぼしに奥さんと」とか、仕事帰りに立ち寄ってバーでワインをグラスで頼み、パスタだけ食べて帰るとか、何回も来ていただける「馴染みの店」を目指しています。

私たちも「お帰りなさい」と笑顔でお迎えし、「いつものワイン?」と言えるような親密なサービスができるようになるといいなと思っています。礼儀を大切にしながら、どこまでお客様との距離感を縮めるか、その辺りの絶妙な呼吸はそれぞれの経験とセンス。ですから、スタッフとも長期的な関係を築いていきたい。 馴染みのスタッフとの会話も「ご馳走のうち」と思って楽しんでいただけるようになれば最高です。「今日は一日ハードだったから、Shiggyに文句でも言ってストレス発散するか」も大歓迎(笑)。


外国人の入国制限が撤廃された。
「東京ワールドゲート」にはラグジュアリーホテル「東京エディション虎ノ門」がある。周辺にも各国の大使館や一流ホテルが非常に多い。

海外のお客様も増えるものと期待しています。近隣のホテルに滞在されている方や、ニューヨークやロンドンに赴任されていた方の中にはスカルペッタをご存知の方も多いと思います。ぜひ、お越しいただき、本場の雰囲気と日本的なものが融合した東京店を楽しんでいただきたいです。


スタッフは皆、ニックネームやファーストネームで呼び合う。底抜けに明るいチームの真ん中には、とびきりの笑顔とポジティブな発想でチームを鼓舞するShiggyがいる。

小さい頃からずっと「Shiggy」と呼ばれてきたので、「田村さん」と呼ばれても気づかない(笑)。「Shiggy」と呼ばれたいから、スタッフにも「自分がどう呼ばれたいか、自己申告して」と言っています。ニューヨークチームが来日した際、トップのジョンも含めて、ニックネームやファーストネームで呼び合っていたので、東京チームも(このやり方に)慣れてきたようです。

ビジネスで結果を出すことはもちろんですが、チームづくりにも力を注いでいます。いろいろな立場のスタッフがいますが、「ワンチーム」として喜びや楽しみを共有していきたい。これまでの接客業は「お客様は神様」、私たちは「仕える人」。でも僕は、自分が幸せじゃないと人を幸せにしたり、心からの笑顔でお迎えすることはできないんじゃないかと思う。だから、スタッフには「健康で幸せでいよう、そうすれば、お客様や周りの人たちを幸せにできるよ」と言っています。これが僕のフィロソフィーです。

皆が幸せでいるために、小さなセレブレーション(お祝い事)をたくさん重ねていきたい。一つ一つはごく小さなことでいいんです。「今日の目標を達成したからお祝いしよう」、「お客様からこんな言葉をいただいたよ、おめでとう」。そういう「おめでとう」を皆で毎日祝いたい。この店を成功させて「じゃあ2店舗目を」となったら何よりも嬉しいですね。


現場では日々問題も発生する。「一人でストレスを溜めず、一緒に解決策を考える仕組みが重要」という。

人間は生きているだけで大小様々な問題に直面するものです。「もうダメだ」と思い詰めるような問題も、違う角度から見ると案外大したことではなかったりする。要は「どの角度から見るか」です。見方を変えるだけで救われたり、希望を持って前に進むことができます。

「自分の問題は自分で解決しろ」という考え方もありますが、それでは追い込まれて鬱になったり、辞めてしまう人が出てしまう。実にもったいないことです。嫌な思いや辛い体験は一人で溜め込まず、パッと発散して次に進めるような関係性や仕組みを作っていくことが重要です。

週1回、シェフとサービス責任者と僕の3人でストレス発散会をやっています。問題点を書き出したリストを持ち寄るのですが、これが案外出てこない。書くときは冷静になるので「まあ、これはいいか、これもいいか」となるんですね。持ち寄ったリストを3人で見ると「なんだ、どれもたいしたことないね」(笑)。真に重要な問題は3人で考えます。立場が違う人を掛け合わせると化学反応が起こり、意外な解決策が出ることもよくあります。


「スカルペッタ東京」の成功は、新たな夢への第一歩。

今はまずこの店を成功させ、当社グループのレストランビジネスに貢献したいし、発展させたいとチーム全員で走っています。森トラストというと、「あのカッコいいレストランをやっているところですね」と言われるようになったら嬉しいし、このチームなら必ずできると確信しています。


地下鉄日比谷線の神谷町駅から「東京ワールドゲート」に直結する緑の地下通路。ここが田村のお気に入りの通勤ルートだ。
今日も、通路に設置されたデジタルサイネージに映し出されるジョン・メドゥに心のなかで呼びかけ、 1日のスタートを切る。

Shiggyお気に入りの通勤路


Profile
田村滋(たむら・しげる)
スイスのホテルマネジメントスクール、レ・ロッシュを卒業後、国内外の一流ホテル&レストランで要職を歴任。2020年森トラスト・ホテルズ&リゾーツに入社。スカルペッタ開業準備室室長を経て、「スカルペッタ東京」総支配人に就任。趣味はゴルフ、ジム、マリンスポーツなどのほか、人間観察。特技は17か国語のモノマネ。ジョン・メドゥ氏も田村の「芸」に涙を流して大爆笑した。